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メガネのお仕事

メガネのお仕事



大学卒業後に進学した眼鏡専門学校の授業で、異業種から来られた先生が、
「この業界には、検品する習慣がない」と話されたのを記憶しています。 
そう言われてみれば、大学3回生のときからアルバイトをしていた阪急三番街の店でも、専門学校卒業後に修行していた店でも、納品されたフレームを検品していませんでした。 
 当店ではフレームが納品されたら、値段付けのときに検品を兼ねて型直しをしています。専用の工具を使って調整を施していくと、素材の強度・弾力性・調整のしやすさといった、フレームごとに違う癖が把握でき、販売時のフィッティング(掛け具合の調整)に役立ちます。手間はかかりますが標準的な状態に型直しをしておくと、お客様ごとに合わせる調整が手際よくスムーズにできます。順に説明してみましょう。

 

フレームの中心にあるブリッジから左右対称になるように調整していきます。

●ブリッジから左右のレンズの両端まで、顔の前面にくるフレーム部分を前枠(まえわく)と言いますが、掛けたときに顔に沿って適度なカーブになるようにします(そり角の調整)。

●左右のレンズ面が睨んでいる向きに捻じれがないようにします(睨みの調整)。

●レンズと目の隙間の間隔を適度に保ち(基本は12mm)、日本人の標準的な鼻の形に合うようにします(クリングスアーム・鼻パッドの調整)。

※ご相談で当店に持ち込まれるメガネの半数以上が、目からレンズが離れすぎた状態になっています。入荷時から調整されていないと思われるメガネも少なくありません。そのような状態では、近視系はレンズの度数が弱く、遠視系は強く矯正されてしまいます。かつて私がそうだったように、未熟な技術者には一番むつかしく感じる調整かもしれません。

●テンプル(つる)の開き具合を、前枠の角の部分で適度にします(智の調整)。

※前枠の各部分やテンプルの硬さ・弾力を考慮して調整を行わないと、掛けたときに適度になりません。

●続けてレンズの傾きを適度にします(前傾角の調整)

●お試しの際、前傾角が付き過ぎないように、少しだけ大きめのお顔を想定して、耳に掛ける部分を適度に曲げます(先セルの調整)

※耳の形に沿うように縦方向へ、顔を包むように横方向へ、三次元的に曲げます。納品時に、必要以上に横方向へ曲がっているものが多く見受けられます(直せますが中国製は特に多い気がします…)。技術が未熟だと、なだらかなカーブが付けられませんが、熟練するほど美しいカーブが付けられるようになります(なだらかに曲げずにカクッと角を付ける理論も試しましたが、小児の調整時以外では私は支持しません)。

 

 納品時の型直しは、標準的な状態で左右対称になるように調整します。一方、掛け具合を調整するフィッティングは、お顔の微妙な左右差を見抜いて、フレームに必要な左右差を付けていきます。
こういう場合はこう調整する…といった理論と、理論通りにフレームを調整する技術を習得して、後進の技術者に指導できる「再現性」が必要です。先代の父は、知る人ぞ知る技術の持ち主でしたが、伝えるのは苦手で技術者というよりも職人という方が似合っていました。
 私②代目も、最近ではお客様に任せていただけるようになりましたが、20年ほど前に年輩女性の型くずれしたメガネを調整したとき、左右対称に調整していないのを指摘されて、ご説明申し上げると、「私の顔が歪んでいると言われるのですか!」と立腹されてしまった経験があります。それ以来、調整前には「人のお顔って、まったく左右対称の人はいらっしゃらないんですよ」と一言伝えることにしています。
 アルバイトを含めるとこの仕事に40年くらい携わっていますが、新しいフレーム素材がどんどん増えて、それに合わせた調整が求められています。形状記憶合金が使用されるようになってから弾力のある素材が増えて、それまでの理論だけではうまく調整できなくなりました。大量に生産できる安価な素材の中には調整不可能なものもあるので注意が必要です。安く提供できるのは魅力ですが当店ではあまり仕入れないようにしています。

  フィッティングの技術レベルを上げるために、大阪まで泊まり込みでセミナーを受けに数回行ったこともあります。そうやって身につけてきた技術ですが伝えるのはむつかしい面があります。
 当店の近隣に業界最大手だったチェーン店が進出してきたとき、圧倒的な価格訴求を展開されて、技術のような目に見えないものの価値が、私自身感じられなくなったときがありました。 
 他県でそのチェーン店の系列に勤めていた同級生がこっそり教えてくれたのですが、進出にあたって当店さえ潰してしまえばこのあたりのシェアは取れると読んでいたらしいです。

 失礼な話で頭にきましたが、当時近辺に9店舗ほどあった眼鏡店の中で、ある意味一目置かれているのかもしれないと考えました。その後別の量販店が進出してきて、数年後そのチェーン店は撤退しましたが…。

  価格訴求型のマーケティングに対してずっと為すすべなしでしたが、あまりにもひどいメガネが流通している中で、技術の差が出やすい遠近両用メガネについて、ここ数年新聞折込チラシで案内を続けています。最近は、技術的な面で期待されてきているのを肌で感じるようになりました。きちんと調整が施されていないメガネが、一通り出回った結果かもしれません。期待に応えられるよう努めています。

  タイムリーな話題ですが、技術面でお店選びをする際の目安に、メガネ関連唯一の資格として私が取得している「認定眼鏡士」制度がありましたが、このたび公益法人の任意資格から、国家資格「眼鏡作製技能士」に移行し、第一期試験の合格者が発表されました。私②代目は無事「1級」に合格しました。「1級」は2級を含めた後進の技術者を指導できる立場にあります。いままでどおり資格がなくても眼鏡を販売できますが、国家資格となったことでメガネの技術が価値として認められていくことを期待しています。すでに大手の眼鏡店では、有資格者を募集したり、有資格者の給与を優遇したりするような動きがあります。

  私どもでは取引先営業マンのメガネを調整させていただくこともあるのですが、私の調整技術を
「絶対に有料にしたほうがいい」と言われたことがありました。お客様からも「お金をとってもらわないと次から頼みにくい」とも言われていました。

有料にする場合、どのくらいが適正な価格か悩みつつ、一方で身につけてきた技術の安売りはしたくないというのが本音でした。私自身腕が上がりましたし、このたび後進の技術者の指導ができる立場である「1級」の国家資格に合格したのを機に、価格を設定することにしました。
 調整は箇所も手間もみな違っているため、不公平感がないように価格を設定しにくいのですが、調整にかかった時間で値段を決めさせていただきました。シンプルに1分に付き100円とさせていただきます。5分ですと500円、10分だったら1000円です。上限を設けて、20分以上は2,000円とします。 ただし、私どもでフレームやレンズをお買い上げいただいたメガネについては、料金はいただかず、当面今まで通りにサービスとさせていただきます。

「高いメガネをお買上いただいてありがとうございます。」とお伝えしたお客様から
「高いかどうかは価値を感じられるかどうかですから…。」とおっしゃっていただいて恐縮したことがあります。
 価値のある、商品(ハード面)と技術(ソフト面)を提供し、それに見合ったお代をいただくことで、お客様や地域・世の中のお役に立っていきたいと思います。