第59号 不定期通信『②代目の独り言』
● カノン ♪ ●
第59号:2023.冬
クラッシック音楽に惹かれているわけではありませんが「パッヘルベル」の“ カノン ”という曲が好きです。学生時代を謳歌していた ‘ 80年代に観た「普通の人々」というアメリカ映画のBGMで聴いてから印象に残っています。
メロディーに耳を傾けていると、優しい気持ちで心が穏やかになっていきます。そして何度聴いても、なぜか今までの人生を振り返っていろんなことが思い出されてきます。強烈な印象がある思い出ではなくて、何の心配もなかった子供時代のことや、長男や長女が小さかったときのちょっとした微笑ましい出来事やだんだん立派になっていく過程、亡くなった両親の笑顔や、愛犬レン君が家にやって来たときの様子など、普段の生活のたわいのない日常が、映画を観ているようにフラッシュバックされて、幸せな気分で涙が出そうになります。
私は、この曲を自分のお葬式のときにかけてほしいと家族に伝えています。そのことをSNSのフェイスブックに上げてみたら、高校時代に親しかった友人が偶然私と全く同じことを考えていたらしく、彼はCDを購入して家族に渡してあるというコメントをくれました。
余命を告げられたわけでもないのに、今までの人生を俯瞰して思い出させてくれるような何かが、カノンの反復する旋律とシンプルで優しいメロディーにはある気がします。
自己啓発で「デス・エデュケーション」というレッスンがあります。自分のお葬式を想像して、親しかった家族や友人や仕事の同僚から、弔辞で何と言って欲しいか、自分の人格のどういうところを見て欲しかったのか…人生を俯瞰するワークを通して、今の生活で優先順位を見直していきます。
私たちは何かにつけ、未来のために今を犠牲にして忙しく、人生全体を俯瞰する視点を持つことは意識していない限りありません。
YouTube ユーチューブ で“伝説のスピーチ”と検索すると、スティーブ・ジョブズが大学の卒業式に招かれてスピーチする動画がヒットします。
ジョブズの、点と点を結びつけるという話が私は大好きです。生きているといろんなことが起こるものですが、その時々にはそれぞれの出来事は点でしかなく、先を見据えて点と点を結びつけることは不可能です。年月を経て振り返ったとき、あの出来事にはそういう意味があったのか…と見えてくるものです。
ジョブズは語っています。点と点が私たちの将来においてとにかく結びつくことを信じる必要がある、運命・人生・カルマなど、それが何であろうと…。 たとえそれがお決まりの道から逸れる道へと導くとしても、点と点が結びつくと信じることは、自分の心に従う自信をもたらし、それがすべてを変えることになる…。
私のささやかな人生でも、過去を俯瞰して見えてくる結びつきが確かにあります。今うまくいっていないように感じていることも、終わりから見ればきっと意味が理解できるのだろうと信じることにしています。
ジョブズは「死」についても述べています。ほとんどすべての事柄、たとえば周囲から自分に向けられたすべての期待や誇り、屈辱を受けたり挫折したりすることへの恐れ、これらの事柄は死に臨んだ時にはただ消え失せ、真に大切なもののみが残る…。死へ向かっていると意識することは、私たちが失うものを持っているのではないかと考える思考の罠を避ける最善策なのです。私たちはすでに何も身に着けていないのです。自分の心に従わないとする理由などどこにもないのです…。
“ カノン ”を聴いているとき私はいったん人生を止めて俯瞰しています。今までの人生を俯瞰すると、大切なものが見えてきます。幸せは気づいて感じるものだと 第54号で記しました。フラッシュバックされてくる思い出は、どこにでもありそうな、ささやかなものばかりです。でもそこに感じる幸せな気分や優しい気持ちは、少なくとも私にとっては「絶対的」なものです。
それに比べると、日々を構成している日常は、「相対的」で「二元論的」です。要領よくできただの、失敗しただの、勝っただの、負けただの、得した、損した、早い、遅い、・・・ フラッシュバックされてくる記憶に比べれば、そんなものはどうでもよくなってきます。
裕福ではなかったけれど、何の心配もなく毎日を目一杯過ごしていた子供のときの微かな記憶・周囲のみんなに祝福されて生まれた長男と、優しさがそのまま生まれてきたような長女との思い出・苦労はあっただろうけれどきちんと育ててもらい、一緒に仕事をした両親への感謝・何をやっても改善しなかった鬱病から抜けさせてくれた奇跡の犬レン君・考えすぎる私をおおらかな性格でいつもサポートしてくれた妻・知り合うことができたたくさんの友人、お客様や取引先… これ以上、私は何を望んで何を必要とするというのか…。残りの人生の優先順位が見えてくる気がするのです。
最後まで読んで下さり、ありがとうございました。